計画の技術

「小手先ではなく、すべての計画領域に共通する根本的な計画力があるはずだ」

ステークホルダーを巻き込んだ計画は期待以上の成果を引き出す(2/2)

 

前回の話を軽く振り返りましょう。

 

生産計画部は、恒常的な生産日程の遅れに苦しんでいました。その原因は上流である設計部の日程遅れにありました。

生産計画部は以下の方法で課題解決に取り組みました。

 

納期からの逆算で日程を積み上げることで設計期限(デッドライン)を明らかにし、設計部の日程順守を促す。

 

この活動は、主役を張る設計部との組織の壁に跳ね返され、風前の灯でした。

ところが、ここで神風が吹きます。設計部がトップマネジメントからのお達しでプロジェクトマネジメント力強化に取り組むというのです。

 

生産計画部はこの神風をうまく捉え、自分たちの生産日程計画作成プロセスに設計部を巻き込むことに成功しました。

この試みは功を奏し、結果的に、当初の目標を上回る成果をあげました。

 

前回はここまででした。

今回は、その続きです。

 

設計部とのコラボレーションを進める中で新たな問題が浮上しました。

この問題は設計部からもたらされました。設計部だけでは日程順守は難しいというのです。

 

その理由は顧客にありました。

 

顧客が予定通りに要求仕様を確定しない限り、設計部は設計には着手できません。フライングで先行着手したところで、下流で手戻りが発生したのでは納期は守れません。

 

そこで、生産計画部と設計部の連合軍は、顧客と対峙しているシステム開発部をこの議論に巻き込むことにしました。

 

顧客との関係性に影響を与える話なので、今回は、設計部を巻き込んだときのように簡単にはいきませんでした。システム開発部が難色を示したのです。

 

そんな最中、またしても神風が吹きました。

 

トップマネジメントから、今度は、顧客との関係構築の在り方を見直すようにとシステム開発部にお達しが下ったのです。中期計画作成と並行して進んでいた「黒字体質を目指す会」からの提言に呼応して、経営企画部長が、顧客接点の問題を指摘したのがきっかけでした。

 

これを境に、生産計画部の計画強化プロジェクトは、システム開発部と設計部を巻き込んだ全社改革プロジェクトに姿を変えました。

 

ここで生み出された相乗効果はトップマネジメントの期待をも上回り、生産計画部のトップは見事、プログラム・オブ・ザ・イヤーに選出されました。

 

この例では、ひとつの部門の変革活動が会社全体を巻き込み、大きな相乗効果を上げました。事業計画やプロジェクト計画をやっていると、これほどではないにしても、成果につながるようなステークホルダー巻き込みの機会はここかしこに潜んでいます。

 

計画をきっかけにステークホルダーを巻き込んで相乗効果を積み上げるのは、計画者の役目です。

 

最後に、ごく身近な例を紹介します。

 

この会社では、商品開発計画はそれぞれの担当チームが行っていました。

加藤が商品Aの開発マネージャに抜擢されたときもそうでした。加藤はプロジェクト計画を作成する過程で、このままでは開発予算が足りないことに気づきました。市場調査の規模を縮小すればコスト削減は可能ですが、戦略的なマーケティングを旗頭にしている今回、それだけは避けたいというのが加藤の思いでした。

 

彼は悩んだ末にあるアイディアを思いつき、同じ時期に開発が進んでいた商品Bと商品Cの開発マネージャに声を掛けました。

 

加藤の提案で、彼らはお互いの商品発表時期を調整し、市場調査が相乗効果を生み出せるように変更しました。3つの商品の開発予算を持ち寄り、マーケティング活動を共同で展開することを決めました。

この活動が功を奏して、開発予算をキープしながら開発したこれら新製品は市場に受け入れられ、大ヒットを記録しました。

 

計画段階にステークホルダーの存在に気づき、彼らを計画に巻き込んだ加藤の機転は、会社に期待以上の成果をもたらしたわけです。

 

めでたし、めでたし。

 

※ Hatena Blog でのブログ掲載は今回でいったん中断します。

  別のブログサイト(note)では継続しております。

 

 

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ステークホルダーを巻き込んだ計画は期待以上の成果を引き出す(1/2)

 

ゴールを達成するために立てるのが計画ですが、私が著書のタイトル「実行に効く 計画の技術」に思いを込めたように、実行をどれほど効果的なものにできるかが計画の良し悪しを決めます。

 

大切なのは、計画の中で図られる、ステークホルダーたちの巻き込みです。

 

例えば、こんなことがありました。

 

舞台は石油プラントで使用するの大規模システムの開発プロジェクトで、登場人物はシステム部、設計部、生産計画部です。

 

システム部門は顧客に対峙して、システム全体をまとめ上げるのが役目です。設計部は、システム部門が作成した要求仕様に沿ってシステムを設計します。生産計画部は文字通り生産計画を作成し、これを拠りどころに納期を達成させるのが役目ですが、一品受注型ということもあり、生産計画というよりはプロジェクト全体の計画を主体的に担います。

 

生産計画部は、恒常的な生産日程の遅れに苦しんでいました。その原因は上流である設計部門の日程遅れにありましたが、トップマネジメントには、下流部門である生産部門が遅れを吸収すべきとの考え方が根強くありました。

 

そこで生産計画部は、以下の方針で課題解決に乗り出しました。

 

① 調達以降のプロセスを工夫して下流プロセスに柔軟性を確保する。

② 納期からの逆算で日程を積み上げることで設計期限(デッドライン)を明らかにし、設計部の日程順守を促す。

 

これらを実行に移すと、すぐに問題が表面化しました。

 

①は自分たちに閉じた話なので問題ありませんでした。問題は②の方です。

 

立ちはだかったの組織の壁でした。

 

設計部には、自分たちの技術力がこの会社を支えているという自負がありました。そんな彼らは、デッドラインを示したくらいではビクとも動きませんでした。

 

ところが、タイミングよく、ある情報が飛び込んできました。

トップマネジメントから設計部に、プロジェクトマネジメント力強化に取り組むようにお達しが下ったという情報でした。

一部の幹部の間では、かねてより、設計部のプロジェクト運営が問題になっていたのです。

 

さっそく、生産計画部の幹部は設計部とのトップ会談を企画しました。

 

自分たちの取り組みを説明すると、設計部のトップも「グッド・タイミング!」とばかりに身を乗り出してきました。

 

かくして、生産計画部は、計画作成プロセスに設計部を巻き込むことに成功しました。生産計画部は設計部と協力して、プロジェクトマネジメントプロセスを定着させるための週次のケイデンスを制定しました。

ケイデンス上に設計部門とのコラボレーションを埋め込んだわけです。

 

ケイデンス(cadence):
〔ダンスや行進の〕歩調、足拍子、〔詩の〕リズム、律動(周期的にくりかえされる運動)

 

この試みは功を奏し、当初の目標を上回る成果をあげました。

 

 

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現状打破を目指すなら、欧米の成功事例を日本向けにアレンジしよう(3/3)

 

3回構成でお届けしている今回のテーマですが、今回はその最終回です。

 

1回目では、欧米企業の成功事例を日本企業が導入する際の心構えについて書きました。

欧米企業と日本企業では文化や価値観が違うので、欧米のベストプラクティスを参考にして変革を進める際には、両者のギャップをよく理解し、日本企業の良さを実装方法にうまく埋め込まなければなりません。

 

そのためのポイントはふたつです。

 

  • 全体の底上げに時間をかける。
  • 権限委譲の方法を工夫する。

 

2回目となった前回は「全体の底上げに時間をかける」について具体的に説明しました。

日本人は世界の固有種です。いざ変革に着手してみると、欧米企業との文化や価値観の違いは皆さんの想像を超えます。この違いは、勇み立つ皆さんの心を折ることでしょう。

 

私の解決策は、私たちも変化することです。

私たちは欧米の成功事例を日本向けにアレンジするだけでは不十分で、ある程度は欧米型に歩み寄らなければなりません。日本人がかたくなに世界の固有種であり続ける限り、私たちは毎度、アレンジに苦しむことになるでしょう。

ただし、闇雲に変わろうとしてもうまくはいきません。私たちはまず、どこを変え、どこを残すかべきかを判断しなければなりません。

 

ところが、文化や価値観は、口で教え込んでも変わるものではありません。大切なのは、シンプルなルールをつくり、時間をかけて、腹落ちするまで根気よく付き合うことです。彼らの一員として目的意識を共有し、熱意をもって接することです。私はこれを、いわゆる「躾(しつけ)」のようなものだと表現しました。

 

さて、最終回の今回は「権限委譲の方法を工夫する」について考えます。

 

欧米企業はトップマネジメントが意思決定し、組織ピラミッドの縦軸に配置された多くの戦略スタッフがこれを現場活動へと緻密に落とし込みます。落とし込みにはKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)が使われます。機能チームごとにKPIが展開され、それはさらに各個人へと引き継がれます。各個人は、明文化された自身の役割業務を遂行しながらKPI達成を目指すわけですが、役割業務以外のことには手を出しません。お互いの利害が一致して連携して動くことはありますが、これは合理性の追求であって、日本企業でよく見かける助け合いのようなものはありません。

この点においては、私は日本企業の方が優れていると思っています。

 

日本企業が得意とする現場主義、現場メンバーの積極性、高い当事者意識などは欧米企業の硬直的な権限移譲を遥かに凌駕していると私は考えいています。

 

欧米企業の成功事例に感化され、固い決意で変革に挑んだところで、勢い余って日本企業の良さをすべて失ってしまったのでは元も子もありません。

これは、日本人の真面目さゆえに起こり得ることです。

 

そこでポイントとなるのが、権限委譲の在り方です。

欧米企業では、個人に対して綿密な業務指示とKPIを提示し、その範囲内で権限を委譲します。私が思うに、このやり方が私たち日本人の気質に合いません。

 

日本企業の場合は、権限委譲の対象を組織ピラミッドのもっと上位に設定すべきです。

 

例えば、私が組織設計するのであれば、権限移譲の対象を個人ではなく事業部や配下の部課といったチームに設定します。トップマネジメントや縦軸の戦略チームが各チームの成果を適切に評価し、必要に応じてコントロールするというやり方です。

 

このやり方は下手をすると部分最適や属人性につながりかねないので、そうならないように、仕組みやルールを工夫することが大切です。

仕組みやルールの定着にあたっては、前回説明した「全体の底上げ」がきっと後押ししてくれることでしょう。

 

「全体の底上げ」と「権限委譲の工夫」をうまく織り交ぜつつ欧米の成功事例を日本的にアレンジできれば、結果は自ずと付いてきます。

 

輝かしい結果を残している欧米企業はたくさんあります。彼らを無視していたのでは、私たちは世の中の変化に取り残されてしまいます。しかし、私たちには、欧米企業にはない良さもたくさんあります。

良さを伸ばし、欠点を補いながら、全体としての完成度を追求することで、世界に名だたる日本企業を目指しましょう。

 

 

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現状打破を目指すなら、欧米の成功事例を日本向けにアレンジしよう(2/3)

 

前回は、欧米企業の成功事例を日本企業が導入する際の心構えについて書きました。

欧米企業と日本企業では文化や価値観が違うので、両者のギャップを理解することから始めなければなりません。その上で、実装段階には、日本企業の良さをうまく仕組みに埋め込めるように工夫する必要があります。

 

そのためのポイントはふたつです。

 

  • 全体の底上げに時間をかける。
  • 権限委譲の方法を工夫する。

 

今回は「全体の底上げに時間をかける」について考えます。

 

ここでは「欧米企業と日本企業では文化や価値観にかなりの違いがある」これが大前提になります。魅力的に映る欧米の成功事例を導入しようと思い立ったとき、この違いが、勇み立つ皆さんの心を折ることでしょう。なぜなら、この違いは、考えれば考えるほど大きいからです。日本企業の良さをうまく仕組みに埋め込もうとしても、両者の違いのあまりの大きさに頭が混乱し、なかなか考えがまとまらないはずです。

 

表題には「欧米の成功事例を日本向けにアレンジしよう」と書きましたが、実はそれだけではダメで、私たちもある程度は欧米型に歩み寄らなければなりません。

 

日本人がかたくなに世界の固有種であり続ける限り、私たちは毎度、アレンジに苦しむことになります。

 

すべてを捨てるのではありません。日本人の目で客観的に見たときに「確かにそれはそうだな」と思えるような欧米企業の合理性のようなものを取り入れてみるのです。

 

闇雲に変わろうとしてもうまくはいきません。

私たちはまず、どこを変え、どこを残すかべきかを判断しなければなりません。

 

ご想像の通り、これはケース・バイ・ケースの対応となります。

そこで、ひとつ例を挙げましょう。

製造業に分類されるある日本企業で、欧米企業のようなプロジェクトマネジメント力を手に入れようとしたときの例です。

 

私は、こんなところにメスを入れました。

 

  • 現場のやる気はそのままに、実行重視の姿勢を計画重視に変える。
  • 曖昧な役割・責任分担を明確にする。
  • 決めないで済ませようとする体質を、決めることのできる体質に変える。
  • すり合わせはいいとして、非公式すぎるコミュニケーションを公式に寄せる。

 

メスを入れると言いましたが…

 

文化や価値観は、口で教え込んでも変わるものではありません。

 

うまくイメージが伝わればありがたいのですが、いわゆる「躾(しつけ)」が必要です。

そこで、私たちはシンプルなルールを定めました。

 

  • タスクごとに担当者をひとりに決められるように計画を詳細化する。
  • 毎週、決まった時間帯に進捗会議を行う。
  • 進捗会議の中で、決めることを先延ばししない。
  • AI(アクションアイテム)を記録に残す。

 

ルールを定着させるべく、私は彼らと多くの時間を共にしました。彼らがルールを腹落ちするまで、彼らの一員として目的意識を共有し、熱意をもって接しました。私たちは、毎週決まった日時に集まっては計画会議や進捗会議を続けました。

その甲斐あって、半年後にはルールは定着しました。

まさに「全体の底上げに時間をかける」を実践したわけです。

 

現場の当事者意識や創意工夫、協力して難問に立ち向かう気持ち、結果だけではなく過程も重視すること、仲間に認められることをモチベーションにできることなど、私たち日本人にはさまざまな良さであり、これはそのまま残すことにしました。

 

最終回の次回は「権限委譲の方法を工夫する」について考えます。

 

 

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現状打破を目指すなら、欧米の成功事例を日本向けにアレンジしよう(1/3)

 

前回までのブログでは、欧米企業の成功事例を鵜呑みにしてはいけないという話をしました。有無を言わさず無理やりに導入したところで、逆にこれまで培ってきた日本企業の良さまでもが破壊され、逆効果となります。

 

私はコンサルタントになりたてのころから、欧米企業の成功事例を鵜呑みにする日本企業の変革活動に付き合いながら、危機感を募らせてきました。うまくいかない状況の中で、私は一時、こう考えていました。

 

「日本企業は中途半端に日本型を温存し、都合の悪いところはそのままに、欧米の成功事例をつまみ食いするからいけないのだ」

「やるなら心底、徹底的に真似なければいけない」

 

時が流れ、度重なる失敗に打ちのめされる中で、私は考えを改めました。

 

「成功事例を真似る前に、しっかりと計画して、目指す姿を定めなければならない」

 

そう考えたのです。

 

着目すべきは、欧米企業と日本企業の文化や価値観の違いでした。両者のギャップを理解し、日本企業の良さを実装方法にうまく埋め込むことができれば、もととなった成功事例を凌駕するほどの成果を生み出せる可能性すらあります。

 

欧米企業と日本企業のギャップについては、前回、例を挙げて説明しました。皆さんのこれまでの経験と照らし合わせていただくことで、具体的なイメージが膨らんだことでしょう。

 

しかし、成功事例を日本企業向けにアレンジするのは容易なことではありません。

 

皆さんの中には、私と同じように考え、欧米成功事例の日本向けアレンジに挑戦した方もいらっしゃるかもしれません。そんなチャレンジャーの多くが、道半ばにして途方に暮れる事態に陥っているのではないかと思います。

 

かくいう私も、日本向けアレンジに確実な方法を見いだせているわけではありません。いつも手探りです。しかし、そのうちのいくつかは成功しているわけで、コツのようなものはあります。

 

ポイントはふたつです。

 

  • 全体の底上げに時間をかける。
  • 権限委譲の方法を工夫する。

 

次回以降は、これらのそれぞれについて順に説明していきます。

 

 

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「成功事例を鵜呑みにする」は計画嫌いゆえの失敗だ(3/3)

 

3回目で最後となる今回の話に入る前に、これまでの2回を簡単に振り返ることにしましょう。

 

日本企業はかつて欧米の先進企業を模倣して成長してきました。欧米の進んだ技術を学び、それを日本人の工夫と情熱でさらに発展させ、ついには世界のトップに君臨した日本企業の自尊心は並大抵ではないはずです。

戦後の高度成長から綿々と続くこのような成功体験が、日本企業には染み付いています。

 

ところがバブル崩壊のころからそれがうまくいかなくなり、安易に模倣に走った日本企業の多くが本来の強みを失い、元も子もない状況に陥ってしまいました。

つまり、昨今(とは言っても既に30年近くは続いていますが…)の日本企業の躓きは、欧米企業の成功事例を猿まねしたことから始まったと言うことができます。

 

それではなぜ、そんな情けない状況に陥ってしまったのでしょうか。

2回目となる前回は、その理由と根本原因について考察しました。

 

原因は、模倣の対象が技術から仕組みへと変化したことにありました。仕組みの背景にあるのは個人の工夫や情熱ではなく組織のガバナンスで、さらにその向こう側には組織の文化や価値観が存在します。

欧米の成功事例は欧米企業の文化や価値観の上で成立していたわけですが、それらは、日本企業のものとはまったく違っていました。

つまり、組織文化や価値観が異なる欧米の成功事例を鵜呑みにしたのでは、端からうまくいくはずなかったというわけです。

つまり、前提が間違っていたわけです。

 

そこで、ひとつの疑問が浮かびます。

前提の違いに気づかず、端からうまくいくわけない道を、なぜ日本企業は選択したのでしょうか。

 

その根底には、日本人の計画嫌いがありました。計画嫌いで走りながら考えることに慣れていた企業幹部たちは「うまくいっている人たちがいるなら、それを真似すればいい」と考えてしまいました。

 

何事もそうですが、変革活動に取り組む場合も然り、そこには計画が欠かせません。

私たちがよく知る多くの日本企業が、きちんと計画もせず、深く洞察することもなく、これまではうまくいっていた “模倣” という伝家の宝刀に頼ってしまったわけです。

その結果、企業内には様々な軋轢や不満が生じて「変革すれども定着せず」の状況がここかしこで発生してしまいました。

 

“技術” から “仕組み” へ、この変化が日本企業の成長エンジンを完全に破壊してしまい、それをうまく軌道修正することもできず、今に至っているわけです。

 

 

さて、続きとなる今回はまず、欧米企業と日本企業の文化や価値観の違いについて深堀りすることから始めましょう。

 

欧米企業と日本企業の文化や価値観はまったく違います。

 

例えば、トップダウン能力主義が事業運営の基礎を成している欧米企業と、現場力を活かすためにボトムアップが主流で年功序列が支配的な日本企業では、自ずとゴールの描き方やそこに至るプロセスは違ってきます。

 

ギャップをイメージしやすいように、欧米企業と日本企業、欧米人と日本人の違いとして思い付くものをいくつか挙げてみます。

 

  • 組織運営

   欧米企業=    強いガバナンス、計画重視

   日本企業=    強い現場権限、実行重視

 

  • 組織内での立ち位置

   欧米企業=    自分を主張する

   日本企業=    周囲に流され易い

 

  • 役割・責任分担

   欧米企業=    明確な役割・責任分担

   日本企業=    曖昧な役割・責任分担

 

  • 意思決定の方式

   欧米企業=    トップダウン

   日本企業=    ボトムアップ型、調整型

 

  • 意思決定で重視すること

   欧米企業=    明確、スピード重視

   日本企業=    曖昧、調整・調和重視

 

  • 組織評価や個人評価

   欧米企業=    能力主義、結果主義

   日本企業=    年功序列+能力、過程重視

 

  • 強みの源泉

   欧米企業=    組織力

   日本企業=    現場の創意・工夫

 

  • 投資のあり方

   欧米企業=    選択と集中

   日本企業=    総花的、捨てられない

 

  • 価値観

   欧米企業=    個人主義

   日本企業=    助け合い

 

  • モチベーションの対象

   欧米企業=    お金、出世

   日本企業=    認められる、期待される

 

  • コミュニケーション

   欧米企業=    公式

   日本企業=    非公式、すり合わせ

 

 

どれも単純な比較ですが、このような比較検討は本来、変革活動の初期に実施しておくべきものです。つまり、計画の一部として検討されるべきものだったわけです。

もし計画の中で検討されてさえいれば、日本企業の選択は違ったものになったはずです。

 

想像するに、正しい選択はこうだったはずです。

 

欧米企業の成功事例を日本的にアレンジして組織に定着させること、それこそが、私たちが目指す改革の本質だ。

 

確かに、欧米には先進的な成功事例はたくさんあり、私たち日本人の目にはどれもステキに映ります。それらは自分自身を顧みない人たちを魅了し、突き動かすに違いありません。

しかし、私たちにきちんと計画する習慣さえ備わっていれば、これが遠い世界の話だということに気づいたはずです。

 

コンサルタントをやっていると、欧米企業の成功事例や先端事例を調査してほしいという依頼を受けることがあります。しかし、お金と時間を費やして手に入れた調査結果をうまく活用しできている企業はごく稀です。ちなみに私はお目にかかったことがありません。調査結果を鵜呑みにしてひどい目に合っているか、もしくはお蔵入りしているかです。30年前ならいざ知らず、今では後者が主流です。ステキに映った成功事例の具体的な内容を手にしたとき「自分たちとあまりにかけ離れている」と気付き、現実に戻ってしまうわけです。苦汁を舐めた今では、欧米企業の模倣に走ったときの社内の抵抗や軋轢を思い浮かべない経営者はさすがにいません。

その結果、自分たちには無理だという結論に至るわけです。

 

私たちにとって大切なことは、走り出す前にきちんと計画することです。

 

成功事例の根底に横たわる組織の文化や価値観の違いに目を向け、ギャップを理解し、成功事例を日本的にアレンジし、日本的な実現方法を見つけ出すことです。ゴールに至るプロセスに、日本的な良さをうまく活かすことが大事です。

 

欧米企業の成功事例をそのまま鵜呑みにするのはダメですが、変革を考える上でのスタートポイントとしてはかなり使えます。書庫で埃をかぶっている、かつて大枚をはたいて手に入れた “欧米企業の成功事例や先端事例” を引っ張り出し、志を同じくする仲間とあれこれ議論してみるのもよいでしょう。

 

勘違いしないでください。

勝負はまだ終わっていません。

まぜなら、成功事例の日本的なアレンジにチャレンジした企業は、まだほとんどないからです。

勝敗が決するのはチャレンジの後です。

 

次回は、テーマを変更し、今回の内容を少し違う角度から考えます。

 

 

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「成功事例を鵜呑みにする」は計画嫌いゆえの失敗だ(2/3)

 

前回は、日本企業の失われた30年について話しをしてきました。

私は、バブル崩壊後の日本企業の低迷がこれほど長く続いている理由のひとつは、日本企業が後先を考えず、欧米企業の成功事例の猿まねに走ったことだと考えています。

 

「うまくいっている人たちがいるなら、それを真似すればいい」

 

程度の差こそあれ、多くの日本企業はいまだにこれを続けています。

 

高度経済成長からバブル期まで、日本企業を支えたのは技術革新でした。そして、その背景にあったのが日本の現場の情熱と工夫でした。

ところが時代の流れとともに、成長のあり方は変化しました。

 

 

“技術” から “仕組み” へ

 

この変化が日本企業の成長エンジンを破壊しました。

仕組みといっても現場の細やかな仕組みではありません。それは、企業や業界をグローバルに取り巻く全体最適の仕組みです。

 

仕組みの背景にあるのは個人の工夫や情熱ではなく組織のガバナンスです。

さらにその向こう側には組織の文化や価値観が存在します。

 

欧米の成功事例は欧米人の文化や価値観の上で成立していたわけで、世界でも異質な存在の日本人(日本企業と言い換えてもいいですが…)が欧米人と同じようにやったところで、それがうまくいく保証はどこにもありません。

 

実際に、多くの日本企業は欧米の成功事例をそっくりそのままに真似しようとしましたが、結果的には様々な軋轢や不満が生じて定着できませんでした。

 

私の目に映る日本企業の変革は、組織の文化や価値観を完全に無視したものでした。

それどころか、有無を言わさずに欧米型の定着を図った組織では日本企業の良さは破壊され、活力は失われました。無計画かつ中途半端な押し付けが、現場に根付く日本企業のよい文化、世界に誇れる価値観を傷つけてしまったわけです。

 

その結果としてあるのが、今の悲しい現実です。

 

私は、成功事例を学ぶことを完全否定しているわけではありません。私たちがゼロから変革活動を積み上げたのでは、おそらくトンチンカンな方向に話しは進んでしまいます。欧米の成功事例は、目指すべき方向性やゴールのイメージを私たちに示してくれます。

これは猿まねとは違います。

 

なぜこうなってしまったのか。

その根底には、日本人の計画嫌いがありました。

 

 

何事もそうですが、変革活動に取り組む場合も然り、そこには計画が欠かせません。

 

しかも、物事を大きく動かすとき、大切なのは具体的で細かな計画ではなく、全体像を俯瞰して方針を固めるための大雑把な計画です。冷静に全体を俯瞰すれば前提の違いに気づき、成功事例の背景に日本企業とは全く異なる組織の文化や価値観があることに違和感をもったはずです。多くの変革リーダーたちは、欧米企業との文化や価値観の違いを分析しようと考えたはずです。

 

ところが、現実はそうはなりませんでした。

猿まねに問題意識をもった人はいたかもしれませんが、彼らの意見は計画性に欠け、経営陣を巻き込むには至らず、結果的に組織を動かすことはできませんでした。

 

さて、最後となる次回は “欧米企業と日本企業の間の決定的な間違い” を説明し、これと計画との関係について掘り下げます。

ぜひご期待ください。

 

 

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