前回は、欧米企業の成功事例を日本企業が導入する際の心構えについて書きました。
欧米企業と日本企業では文化や価値観が違うので、両者のギャップを理解することから始めなければなりません。その上で、実装段階には、日本企業の良さをうまく仕組みに埋め込めるように工夫する必要があります。
そのためのポイントはふたつです。
- 全体の底上げに時間をかける。
- 権限委譲の方法を工夫する。
今回は「全体の底上げに時間をかける」について考えます。
ここでは「欧米企業と日本企業では文化や価値観にかなりの違いがある」これが大前提になります。魅力的に映る欧米の成功事例を導入しようと思い立ったとき、この違いが、勇み立つ皆さんの心を折ることでしょう。なぜなら、この違いは、考えれば考えるほど大きいからです。日本企業の良さをうまく仕組みに埋め込もうとしても、両者の違いのあまりの大きさに頭が混乱し、なかなか考えがまとまらないはずです。
表題には「欧米の成功事例を日本向けにアレンジしよう」と書きましたが、実はそれだけではダメで、私たちもある程度は欧米型に歩み寄らなければなりません。
日本人がかたくなに世界の固有種であり続ける限り、私たちは毎度、アレンジに苦しむことになります。
すべてを捨てるのではありません。日本人の目で客観的に見たときに「確かにそれはそうだな」と思えるような欧米企業の合理性のようなものを取り入れてみるのです。
闇雲に変わろうとしてもうまくはいきません。
私たちはまず、どこを変え、どこを残すかべきかを判断しなければなりません。
ご想像の通り、これはケース・バイ・ケースの対応となります。
そこで、ひとつ例を挙げましょう。
製造業に分類されるある日本企業で、欧米企業のようなプロジェクトマネジメント力を手に入れようとしたときの例です。
私は、こんなところにメスを入れました。
- 現場のやる気はそのままに、実行重視の姿勢を計画重視に変える。
- 曖昧な役割・責任分担を明確にする。
- 決めないで済ませようとする体質を、決めることのできる体質に変える。
- すり合わせはいいとして、非公式すぎるコミュニケーションを公式に寄せる。
メスを入れると言いましたが…
文化や価値観は、口で教え込んでも変わるものではありません。
うまくイメージが伝わればありがたいのですが、いわゆる「躾(しつけ)」が必要です。
そこで、私たちはシンプルなルールを定めました。
- タスクごとに担当者をひとりに決められるように計画を詳細化する。
- 毎週、決まった時間帯に進捗会議を行う。
- 進捗会議の中で、決めることを先延ばししない。
- AI(アクションアイテム)を記録に残す。
ルールを定着させるべく、私は彼らと多くの時間を共にしました。彼らがルールを腹落ちするまで、彼らの一員として目的意識を共有し、熱意をもって接しました。私たちは、毎週決まった日時に集まっては計画会議や進捗会議を続けました。
その甲斐あって、半年後にはルールは定着しました。
まさに「全体の底上げに時間をかける」を実践したわけです。
現場の当事者意識や創意工夫、協力して難問に立ち向かう気持ち、結果だけではなく過程も重視すること、仲間に認められることをモチベーションにできることなど、私たち日本人にはさまざまな良さであり、これはそのまま残すことにしました。
最終回の次回は「権限委譲の方法を工夫する」について考えます。
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