計画の技術

「小手先ではなく、すべての計画領域に共通する根本的な計画力があるはずだ」

計画文化を定着させるには、マネジメントされる側も変わらなければならない

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私たちが目指したのは、計画に対する意識改革でした。

改革の成功に向け、私たちは3つの改革方針を打ち出しました。

 

  • プロジェクトマネジメントの基本行動(=計画基本行動)を定着させる。
  • 口で諭す代わりに行動で躾ける。
  • 各人の働き方を、プロジェクトマネージャがマネジメントしやすい働き方に変えさせる。

 

計画を強化するわけですからプロジェクトマネージャが対象の①と②は当たり前として、③はマネジメントされる側の話です。

今回は③がテーマです。

 

私たちは基本行動の定着には自信がありました。しかし、気がかりな点もありました。それが、プロジェクトメンバー(組織構成員)たちの働き方でした。彼らの多くが「学生症候群」に例えられるようなマネジメントに不向きな働き方をしていたからです。

 

[学生症候群]

 

  • 気分で仕事を食い散らかす。
  • ギリギリにならないと着手しない。
  • 完了した仕事をいつまでもこねくり回す。

 

これらの中でも、マネジメントのしにくさという点で一番気がかりだったのは、ひとつ目の「気分で仕事を食い散らかす」でした。思い付きで手当たり次第に仕事を食い散らかすのがこの組織のスタンダードでした。

作業の多くは期限が決まっているだけで開始時期や終了時期は定かではありませんでしたし、仕事に臨む意識は「期限に間に合えばいいのでしょ」でした。

 

このような状況で進捗会議をやると果たしてどうなるか?

ご想像の通りです。

 

プロマネ:             「この作業は始めましたか?」

メンバー:             「はい、着手はしています」

プロマネ:             「終わっていないのですね?」

メンバー:             「はい、終わっていません」

プロマネ:             「いつ終わりますか?」

メンバー:             「期限が3週間後なので、それまでには終わります」

プロマネ:             「8時間で終わる作業なのに、なぜそんなに期間がかかるのですか?」

メンバー:             「…」(心の声は「期限に間に合えばいいのでしょ」)

 

こんな会話が続くようではプロジェクトマネジメントどころではありません。

私たちは働き方のルールを定めることにしました。

それがこれです。

 

「始めたら終わる」

 

作業に着手したら、その作業が終わるまで他の作業に浮気しないという意味です。

これまでの働き方は、壁にぶつかったり、飽きたりすると、すぐに他の作業に浮気していました。情報が不足しているにも関わらずなんとなく作業を始め、案の定、情報不足で放置するということも多かったようです。

悪気のないこの行動が、マネジメントしにくさを招くばかりか、段取り替えの非効率につながってしまっていました。生産工程では段取り替えの無駄は効率化の対象ですが、設計作業のような頭脳労働でも状況は同じです。作業を切り替えるたびに頭の中を切り替えることになり、自覚なしに時間を無駄にしています。

 

「始めたら終わる」という言葉がシンプルだったお陰もあって、この働き方は抵抗なく受け入れら、ほどなく現場に行き渡りました。

ただし、これは自分本位の作業が対象であって、相手本位の作業、例えばお客様が主体の作業などはうまくいきません。それゆえ、相手本位の作業はプロジェクトリスクにつながり易いわけです。

 

私たちは、もうひとつ、新しい働き方のルールを提唱しました。目を付けたのは「飛込み業務」の扱いでした。

 

この組織では飛込み業務が日常化していて、作業の半分が飛び込業務という人も少なくありませんでした。しかも「飛込み業務優先」という意識が強く、これが計画を阻害していました。

 

飛込み業務の多くはプロジェクトの外からのものでした。

無計画な人たちは目の前のことしか見ていません。そんな人たちは、扉を開けて初めて問題に気付きます。危機に直面してはじめて必要性に気付き「今日中に作成してもらわないと大問題になる」と脅迫まがいなやり方で相手に迫ります。相手にとって、これは飛込み業務以外の何ものでもありません。

こんな飛込みがかなりの比率を占めていました。

こんな飛込み業務は「待ったナシ」が原則だったので、計画重視の大義を振りかざしたところで、飛込み業務をないがしろにしては仕事がまわらなくなります。

 

計画しないのが当たり前の組織では、誰もが飛込み業務の“被害者”であり、同時に“加害者”でもあります。負の連鎖を断ち切るのは容易ではありません。

 

現場を知っている幹部たちは、頭を抱え込みました。

しかし、見て見ぬふりしていたのでは、計画の意識改革など叶うわけがありません。

飛込み業務を優先するということは、計画されていた業務が後回しされるということを意味していたからです。

 

私たちは次のルールを定めました。

 

  • 原則として、飛込み作業は次の進捗会議で計画に組み込まれてから実施する。
  • どうしても待てない場合は、プロジェクトマネージャの判断のもとに優先順位をつけて実施し、ステークホルダーとは速やかに調整を図る

 

計画されていた業務か、それとも飛込み業務か、この優先順位を進捗会議の場で判断し、計画に組み込んでから作業に着手するわけです。

 

「進捗会議後の1週間は計画通りに作業に専念し、計画にない作業はやらない」

これが大原則です。

しかし、すべてをこのルールのもとに処理するわけにもいきませんでした。例外を許す代わりに、プロジェクトマネージャの判断を経由することで例外の乱用を防ぐことにしました。

 

しかし、私たちは強い信念を持っていました。

無計画な飛び込みを許すわけにはいきません。

どんなに時間がかかろうと、無計画な人たちが得をするような、そんな風潮を見逃すわけにはいきませんでした。

まずは幹部を説得し、ミドルマネージャと議論し、現場と何度も話をし、計画重視の意識改革とも相まって、飛込み業務の殺伐とした雰囲気は徐々に解消されていきました。

 

今回は毛色を変えて、マネジメントされる側の話をしました。

計画に対する意識改革は組織改革なのです。

 

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