ガバナンスの効いている組織では、変革の多くはトップダウンで行われます。現場の納得感よりも組織の利益が優先されますし、現場もそれを理解しているからです。欧米企業や外資系企業が短期間で変革を成し遂げられるのはこのためです。
しかし、このやり方では、現場に自主性や工夫は生まれません。あるのは統制だけです。
現場に依存している日本企業は欧米企業のようにはいきません。ガバナンスが効かないからです。しかも、現場の自主性や工夫が損なわれたのでは元も子もありません。
そんなこともあって、前回は「ガバナンスの効かない組織に計画を定着させられるのか? 私が出したひとつの答え」というタイトルで、私の取り組みについて書きました。
今回と次回は、この続きでお届けします。
その企業は典型的な日本企業で、プロジェクトマネジメント力強化の名のもとに計画の定着に取り組んでいました。私はこれに一肌脱ぐことになりました。
私が目指したのは、計画に対する意識改革でした。
改革に向け、私は3項目からなる方針を打ち出しました。
- 目指すのはプロジェクトマネジメントの基本行動(=計画基本行動)の定着である。
- 口で諭す代わりに行動で躾ける。そのためにMicrosoft Projectを活用する。
- 各人の働き方を、プロジェクトマネージャがマネジメントしやすい働き方に変えさせる。
今回は1つ目と2つ目について説明します。
価値観や拘り、文化、行動規範に関わるような事柄は、口で諭したところで伝わりません。川で溺れている子供に川岸から泳ぎ方を指導するようなもので、うまくいきっこありません。
こんな時に大切なのが躾です。
私は ”計画は躾(しつけ)” だと考えています。
ネットで「躾」を調べると、ウィキペディアにはこう書いてありました。
「人間社会・集団の規範、規律や礼儀作法など慣習に合った立ち振る舞い(規範の内面化)ができるように、訓練すること」
私の場合で置き換えるとこんな感じです。
「プロジェクトを成功に導くために欠かせない計画基本行動を組織の行動規範として定め、この規範に合った立ち振る舞い(規範の内面化)ができるように、訓練すること」
子供の躾に代表されるように、躾には手間と忍耐が欠かせません。人格形成過程にある子供ならまだしも、相手が大人となれば、躾けるのは容易ではありません。
では、どうやって躾ければいいのか。
私の長い戦いが始まりました。
話は飛びますが、皆さんはMicrosoft Projectというプロジェクトマネジメントツールをご存知でしょうか。文字通り、マイクロソフトがプロジェクトマネジメント専用に開発したオフィスアプリケーションです。プロジェクトマネジメントツールのデファクトスタンダードと言えるでしょう。
私はマイクロソフトに在籍していた7年間、このアプリケーションの販売促進と、購入ユーザーへの定着支援コンサルティングを担っていました。
日本国内のMicrosoft Projectの販売数は、当時、米国とは比較にならないほど少なく、そこには50倍近い開きがありました。日本の人口が米国の3分の1であることを考慮したとしても、この開きは相当なものでした。
この状況は今も変わっていません。むしろその差は拡大する一方です。
プロジェクトマネジメントには、バイブル的存在のPMBOK(Project Management Body of Knowledge)というプロジェクトマネジメント知識体系ガイドがあります。
PMBOKに書いてあるようなグローバル標準的なプロジェクトマネジメントを実践する場合に、Microsoft Projectはプロジェクトマネジメント支援ツールとしての真価を発揮します。逆にいい加減にやりたいなら、これほど厄介なツールはありません。
Microsoft Projectがこれほどまでに日本市場に浸透していないのは、日本のプロジェクトマネジメントに原因があるというのが私のかねてからの見立てです。
特に製造業はいけません。
プロジェクトマネジメントが定着していない日本国内でMicrosoft Project の出番がないのは当たり前です。
ところが、プロジェクトマネジメントは頭で理解したからといって身に付くものではありませんから、日本企業にこれを定着させるのは至難の業です。
そこで冒頭の話に戻るわけです。
要は躾の問題なのです。
「どうやって躾ければいいのか」
この課題を解決するために私が目を付けたのは、やはりMicrosoft Projectでした。
Microsoft Projectには世界中のプロジェクトマネージャのノウハウが機能として詰め込まれています。Microsoft Projectの機能を「なぜこんな機能が準備されているのか」というレベルまで理解することができれば、自ずとプロジェクトマネジメントの基本を理解することができます。Microsoft Projectを使いこなそうとすればするほど、プロジェクトマネジメントの基本行動は身に付きます。
Microsoft Projectの活用 ⇄ プロジェクトマネジメント基本行動の習得
これが、私が導き出した答えであり、躾の中身でした。
大切なのは頭で理解することではなく、具体的な行動として体に染みつけることです。
[プロジェクトマネジメントの基本行動]
- あらかじめ、作業ベースでしっかりと計画する。
- 週次で実績を把握し、計画を更新する。
- 計画に挙げられた作業に専念する(計画にない作業はやらない)。
①と②の行動がMicrosoft Project の操作に対応します。Microsoft Project を活用することで、プロジェクトマネージャは計画の勘所を身に付けることができます。たとえばこんな感じです。
- タスクには依存関係があり、依存関係の軽視は手戻りにつながる。
- 期間短縮の手段は、リソースの追加投入か成果物の簡素化しかない。
- 段取りをしておかなければ日程は守れない。
- 過負荷は遅延につながる。
これらの気付きは躾そのものです。計画会議や進捗会議の参加者は、その場の発言や操作を通じてプロジェクトマネジメントの基本行動を体現できるというわけです。
~ 次回に続く ~
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