計画の技術

「小手先ではなく、すべての計画領域に共通する根本的な計画力があるはずだ」

幹部の「計画に割く時間は無いぞ」のひと言がプロジェクト完全崩壊の引き金を引いた

 

計画で大事なのは効率性です。計画は大切ですが、時間をかけ過ぎてはいけません。

 

そんな話を以前に書きました。

これは、計画の大切さを理解している人たちに宛てた話です。そうでない人たちにうかつにこの話をしようものなら「なーんだ、計画しなくていいのか」となってしまいます。

 

時間を “かけるな” ではなく “かけ過ぎるな” 、根掘り葉掘りやるのではなく “効率的にやれ” と言っているのであって、この点に注意が必要です。

 

非効率に計画していると、たまに、とんでもない悲劇に見舞われることがあります。心無い人たちからすれば、それは、忙しく働く現場に対する背徳的な行為に映るからです。

 

これからする話は、それとは少し違います。

だらだらと時間をかけて非効率に計画していたわけではありませんが、それにもかかわらず起こってしまった不幸です。

しかし、この “事件” は、計画で効率性を重視する私の脳裏に今も残っています。

 

あるプロジェクトの立て直しに向けたキックオフミーティングに参加したときの話です。

このプロジェクトは大規模で長期間に渡るものでしたが、最初の半年で崩壊の危機に直面していました。このような状況を招いた最大の原因は計画不足でした。

 

私がお客様の会議に参加するときは、いつも後ろの目立たない席に陣取ります。そして、できるだけ穏やかな表情で参加者の皆さんと目を合わせるようにしています。

けっして、いきなり場を仕切るようなことはしません。

これはすべて計算づくで、雰囲気が固くなって現場の生の声を聴けなくなる、そんな状況を避けるためです。リラックスした雰囲気の中で参加者に口を開いてもらうのが一番です。

この日も、がやがやとした雰囲気で会議が始まりました。

このリラックス感がある重大な発言を引き出しました。

 

私は、参加していたPM(プロジェクトマネジメント)サポートメンバーのある発言に耳を疑いました。幹部の口から発せられた「計画に割く時間は無いぞ」のひと言が、プロジェクトメンバーたちのその後の行動規範、つまり計画軽視の行動を決定づけたというのです。

 

話の内容はこうです。

 

彼らは会議室に集まって、MS-Projectの画面をプロジェクターで投影しながら実行計画を作成していました。ガラス張りで、外からも様子がうかがえる会議室でした。

すると、幹部が突然、扉を開けて入ってきたそうです。

その時に発せられた言葉がコレでした。

 

「計画に割く時間は無いぞ」

 

会議室で議論していたメンバーたちは言葉を失いました。

会議をファシリテーションしていたのが、この話をしてくれたPMサポートメンバーでした。彼はそそくさとノートパソコンをたたみ、他のメンバーたちは設計作業に戻るためにそそくさと部屋を後にしたらしいのです。

 

そのとき以降、公式な進捗会議が開催されることはありませんでした。

 

計画は、プロジェクトマネージャがひとりでやる仕事になりました。いくら計画したところで、メンバーたちを巻込めていないのでは意味がありません。計画は、実行とシンクロしてこそ意味があるからです。

 

このときの幹部の本心はわかりませんが、彼が発した言葉を、会議に参加していたメンバーたちは「計画していたら叱られる」と受け取ってしまったわけです。

 

「計画なんて無意味なことはしないで、まずは目の前のことに全力を尽くしなさい」

 幹部の言葉は、メンバーたちにはこう聞こえたに違いありません。

 

このキックオフミーティングを境に、私たちは、計画重視に大きく舵を切ろうとしました。計画作成には時間が必要なので、プロジェクトをいったん中断して、仕切り直しすることを提案しました。

 

しかし、この提案が受け入れられることはありませんでした。仕切り直しの必要性を幹部に伝えきれなかった私の責任もあります。

結果的に、このプロジェクトは最後まで血を垂れ流し続けることになりました。

 

これは10年も前の話です。

今では、計画する現場の人たちを叱る幹部なぞいないかもしれませんし、成長した今の自分なら、幹部を説得して、計画不足でカオスに陥ったプロジェクトを救うこともできます。

 

しかし、このときのような不幸が皆無になったわけではありません。

実際のところ、これほど極端でないにはしても、似たような話は私のまわりにいつも転がっています。

それゆえ、私は今も計画の大切さを説き続けているのです。

 

 

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