計画の技術

「小手先ではなく、すべての計画領域に共通する根本的な計画力があるはずだ」

計画には正解が “ない” だから厄介だ (2/2)

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前回は、計画には正解がないこと、正解がないために計画が厄介なことになることを説明しました。

 

[計画に正解がないがために引き起こされる問題]

 ① どこまでやればいいのかわからない。

 ② 信念が揺らぐ。モチベーションを維持できない。

 ③ 合意形成が大変。周囲の共感を得られない。

 

 

今回は、IT導入のプロジェクト計画を例に、前回の話を振り返ります。

 

松田さんは会計システムの導入責任者です。

老朽化した会計システムの入れ替えが決まり、ITに詳しくない幹部たちは、松田さんに全権を委任しました。

 

予算申請に向けて導入計画の作成に取り組もうとしたとき、松田さんは障壁にぶつかりました。計画の前提が決まっていなかったからです。

 

「現場の要求に沿ってカスタム開発すればいいのか、それともパッケージソフトを導入してパッケージ仕様に現場の業務を合わせ込めばいいのか」

 

パッケージソフトを導入するとしても…

 

「現場の要求を起点にボトムアップで積み上げて大規模カスタマイズすればいいのか、それともトップダウンで主要な仕様を決めてカスタマイズを最小限に抑え込むのがいいのか」

 

コストや開発期間を見積もろうにも前提が必要です。

 

松田さんは、パッケージソフトを導入してトップダウンで導入を進めることに決め、この方針に沿って計画を作成しました。

しかし、明確な根拠があったわけではありません。決め手は、カスタム開発では先が読めないことでした。

 

この仕事を任されたとき、松田さんは希望に胸を膨らませていました。しかし、情報収集が進むに連れ、不安の方が大きくなりました。

 

「予算申請の時期は近づいているが、この程度の情報で計画を立ててよいものか」

 

同僚の中には、カスタム開発を推す人もいました。

 

「現場が黙ってパッケージを受け入れるわけがないよ」

 

こう意見されると心が揺れました。

情報収集を目的に展示会に出向いても、関連する書籍を読み漁っても、迷いは大きくなるばかりでした。

 

支援者を巻き込むのも、計画を幹部に承認してもらうのも、並大抵のことではありませんでした。自信が揺らいでいるときはなおさらです。せっかく作成した計画には、確実性はおろか合理性すら感じることができませんでした。

 

幹部たちも、カスタム開発派とパッケージ導入派が綱引きをしていました。カスタム開発派はボトムアップを推し、パッケージ導入派はトップダウンを推しました。松田さんにはカスタム開発派を納得させるほどの根拠はありませんでした。

 

最終的には社長のひと言で決まりました。

 

「現場の言いなりにカスタム開発したのでは何も変わらんぞ」

 

導入が始まり、コストオーバーランや日程遅れが表面化する度に、計画段階の悪夢が再燃しました。

 

「ほら見ろ、カスタム開発のほうがよかったじゃないか」

「今からでも遅くないから、カスタム開発に舵を切ったほうがいいのではないか」

 

そんな声がここかしこから聞こえてきました。

 

 

「本当にこれでいいのか… 」

 

松田さんは挫けてしまいそうになりました。

パッケージ導入に固執していていいものかと心配になり、心配しているうちに目標達成意欲が低下してしまいました。

上司に「今のままでいいのか」と問いただされると、顔から血の気が引きました。

 

それから2年後、半年遅れでシステムが稼働しました。予算は3千万円オーバーしました。

トップダウンで業務プロセスの変更を強いられた現場には、いまだに「カスタム開発していたらもっとうまくいっただろうに」と陰口を言う人もいます。

 

松田さんと導入チームのメンバーたちは、今も「パッケージ導入の判断は正しかった」と自分自身に言い聞かせながら、現場からの苦情に対応し続けています。

彼らに納得感や充実感はありません。

 

このような光景は特別なことでしょうか。

私の周りにはよくあります。

 

「計画に正解がない」という事実は、計画者に重く負担としてのしかかります。

それどころか、計画には解法すら存在しません。

 

プロジェクトマネージャの皆さんは「PMBOK(Project Management Body Of Knowledge:プロジェクトマネジメントの知識体系)があるじゃないか」とおっしゃるかもしれませんが、あれは知識体系であって解法ではありません。プロジェクト環境の違いやプロジェクトごとの事情の違いに配慮して書かれているわけでもありません。

 

確かにPMBOKはプロジェクトマネージャたちの拠り所にはなりますが、プロジェクトマネジメントの前提となる意志決定や合意形成のあり方に関しては書かれていません。

ましてや事業計画にはPMBOKのような知識体系すらありませんし、他の計画領域も状況は同じです。

 

 

実績のある解法は確信につながりますが、計画にはそれすらありません。

解法がないことで、問題はさらに深刻化するわけです。

 

計画は厄介です。「正解」も「解法」もありません。

その半面、ビジネスシーンには計画が欠かせません。

たいていの人は計画が苦手ですが、苦手だからといって、私たちは立ち止まってはいられません。

 

不安に打ち勝つために、私たちは計画に向き合い続けなければなりません。計画を繰り返すことで得られた経験や知見は、皆さんを大きくするはずです。

かつての私もそうでした。

 

 

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