何事もそうですが、前提の崩壊は大惨事を招きます。
前回は前提要因という “ツッコミどころ” の大切さについて例を交えて解説しました。
これ以外にも、前提が崩壊したために起こった失敗事例は枚挙にいとまがありません。
[業務改革には成功したが優先事項はほかにあったという事例]
実行内容: やっと業務に余裕ができた彼らは、かねてから懸案であった「在庫削減」を目指して、業務改革に取り組んだ。多くの時間と予算をかけた結果、新しい仕組みは完成し、在庫は半減した。
結果: 不景気の中、投入した新製品の不発もあって、彼らの会社は赤字に転落した。
見落としていた前提: 在庫削減でコストは減ったものの、売り上げの悪化を補えるほどのインパクトはなかった。優先して取り組まなければならなかったのは販売網の強化だった。
[お客様のキーマンを見誤ったという事例]
実行内容: 彼らは従来から取引のあるお客様から次期購買システムの提案を求められた。懇意にしている客先IT部門の課長から提案の背景や課題、予算などの情報を得た。彼らは週に1度のペースでお客様と連絡を取りながら2名体制で提案書をつくり上げた。
結果: お客様の意思決定者が集まる提案説明会で彼らの提案は好印象を与えたかに思えたが、受注には結びつかなかった。
見落としていた前提: 最終の意思決定はIT部門ではなく業務部門の部長であった。競合していたもう1社(A社)に声をかけたのはこの部長だった。A社の提案は、彼の課題意識に沿ったものだった。
このように、計画を立てる上での前提要因の欠落は、その後のすべての努力を水の泡にしかねません。では、前提要因を余すところなく洗い出すにはどうすればいいのでしょうか。完璧な方法がないのはお察しの通りですが、私なりにその方法を考えてみました。
まずは計画対象を取り巻く環境を見渡すことが大事です。その上で、計画の前提と思えるものを洗い出します。これが前提要因なわけです。この時、心にフィルターを掛けてはいけません。「まさかそんなことはないだろう…」とか「疑い出すときりがないから…」とかとフィルターをかけてはいけません。前提要因の洗い出しに向けて数名で議論しているときなどは特に、知らず知らずのうちに心にフィルターをかけがちです。
とはいえ、闊達な議論をしようにも、議論の足掛かりとなる何らかのヒントは必要です。
私からのヒントは次のようなものです。
[前提要因を洗い出すためのヒント]
- 目的や目標に関するものを洗い出す。
- 実行力に関するものを洗い出す。
- 支援体制に関するものを洗い出す。
- 計画対象がプロジェクトなら、依存関係のある他のプロジェクトとの関係性に着目する。
- 計画対象が商売に関わることなら、市場の捉え方(=市場認識)に着目する。
- 計画対象にステークホルダー(利害関係者)が存在するなら、ステークホルダーの期待や要求に着目する。
これらのヒントを呼び水に、常識にとらわれ過ぎず、心を開放して議論してみてください。
前提要因を洗い出せたら次は、その前提が正しいか否かを検証する必要があります。
検証にあたり、私は自問自答の質問を準備しています。代表的なものをいくつか紹介しましょう。
「その前提は、論理的に正しいか?」
「その前提は、時間の経過や環境の変化によって陳腐化していないか?」
「その前提は、一部の人たちの期待や思い込みに過ぎないのではないか?」
「その前提は、目的や目標を達成するのにふさわしいか?」
最後に、注意すべき点をもうひとつ挙げます。
前提要因は外部から与えられるものと思われがちですが、計画する上で自ら設定する前提要因もあります。これを忘れてはなりません。これを「仮説」と読み替えても構いませんが、前提要因として取り扱う仮説は、実行フェーズの結果を左右するような重要なものに絞り込むほうがよいでしょう。あれもこれもと挙げすぎると、せっかく洗い出した前提要因が薄まってしまいます。
「フィルターを掛けないで」とお願いしたのは前提要因の洗い出しが対象であって、ここでは横の広がりを幅広に取りたいという意図がありました。
前提要因の一種ではありますが、仮説の場合は少し様子が異なります。仮説の洗い出しでフィルターを掛けないと、縦の深掘りが始まってしまいます。前提要因の議論では細か過ぎる議論は必要ありません。
計画の初期段階である全体計画では、前提要因の洗い出しは大切です。計画に向けた頭の体操的な意味合いもあります。
思いもしなかった方向に話が向かうかもしれませんが、それは “実行に効く計画” のためには必要な議論です。
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