計画の技術

「小手先ではなく、すべての計画領域に共通する根本的な計画力があるはずだ」

グッドイナフ(今のままでいいや)の時代を制するには「外注管理」が大切だ

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いまや多くの業界がグッドイナフ(Good Enough)に直面しています。グッドイナフとは、製品の機能や性能が向上して顧客の要求レベルを上回った結果、市場全体が「今のままでいいや」と考えるようになった状況を指した言葉です。私は、20年ほど前、マイクロソフトに務めていたころにはじめてこの言葉を耳にしました。パワーポイントやエクセルといったMicrosoft Office製品群はバージョンアップのたびに機能・性能がアップしましたが、2000年を過ぎたころから米国本社ではグッドイナフがささやかれるようになり、これへの危機感が原動力となって新たな商品戦略へと大きく舵が切られました。

 

グッドイナフの時代には、新たな価値観を提案する新興企業が躍進します。それと同時に、コスト競争がし烈を極め、大企業を痛めつけます。厳しい環境下に置かれた大企業は不採算事業の切り捨てや社員数の削減といったリストラに踏み切ることになるわけですが、このような状況下では自前主義はうまくまわりません。

投資リスクを背負えなくなり、その結果、ビジネススピードも低下し、ボーっとしていると固定費負担が事業を圧迫し始めます。

そこが今日のポイントです。

 

グッドイナフでリストラが始まると、その結果、外注(子会社やビジネスパートナー、取引ベンダーなど)への依存度が急激に高まります。

 

このような状況はプロジェクトを直撃します。これまでは身内での人のつながりで、ある意味 “なあなあ” でやってきたプロジェクトマネジメントは外注管理へと姿を変え、これまでのようなやり方ではうまくいかなくなります。これをきっかけに、プロジェクトは大きな音をたてて軋み(きしみ)始めます。

 

そんな背景があり、プロジェクトマネジメント力強化に向けて、今、一番悩ましいのが「外注管理」です。

 

外注管理が大きなポーションを占める今の状況を乗り切るには、プロジェクトマネジメントに新しい価値観を樹立し、それを仕組みに落とし込まなければなりません。

これまでの価値観はこうでした。

 

少々の不都合は大目に見る。

その代わり、苦しいときには助けてもらえる。

 

このような仲間意識がプロジェクトメンバー共通の価値観だったところを、グッと襟を正し、相互のインタフェースを規定することでお互いの役割や責任を明らかに、各自の責任をきっちりと果たさなければならなくなります。

外注先は、もっとも厄介なマネジメント対象となるわけです。

 

価値観の転換に向け、私は、プロジェクトマネジメントチームとの議論にたくさんの時間を割きました。

 

  • プロジェクトやプロジェクト環境の変化
  • これまでのやり方の良かったところと悪かったところ
  • その結果もたらされた成功と失敗
  • いまの自分たちにできること

 

このような多くのテーマを設定して議論を重ねました。

外注管理は契約遵守と人間臭さとの間の距離感が大切なわけで、一筋縄ではいきません。繰り返される議論は、外注管理強化に向けた基盤となります。

 

さて、このような活動を通じて築かれた基盤の上に新たな価値観を樹立できたとしましょう。

次に私たちが取り組むのは、外注管理の仕組みづくりです。

 

外注先との付き合い方には「なあなあ」から「きっちり」までいろいろなパターンがあるわけですが、手始めに、どのようなものがあるのかを羅列してみましょう。今回は発注側の姿勢に着目し、発注側の関与率が低いものから順に並べてみました。

 

 ① 丸投げ(成果物と納期のみ管理)しているパターン
 ② 個々の成果物の内容を大まかに理解しているパターン
 ③ 個々の成果物の作成順序を理解しているパターン
 ④ 成果物の単位ではなく、全体の作業手順を理解しているパターン

 

①は、かつて「ゼネコン方式」と揶揄されたパターンで、外注管理という概念自体が欠落している状況です。すべてが外注先任せで、価値をプラスせずに自分たちの取り分だけプラスするこのパターンは、ビジネスシーンではルール違反です。

残念なことに、これと似たような状況はいまだに残っています。

 

②は、③や④に比べて発注側の関与率が高いのではないかと勘違いする方がいらっしゃるかもしれませんが、それは間違いです。総じてマネジメント意識が低く、技術志向が強い日本企業では、②を外注管理の理想像だと勘違いしている場合があります。

外注先を呼びつけては技術論を戦わせて「私はしっかりと外注先を管理している」と満足感に浸っているシーンをよく見かけますが、これではプロジェクト運営はうまくいきません。プロジェクトマネジメントで大切なのはQCD(品質・コスト・納期)のバランスです。

 

③と④の違いは、外注先への信頼感の違いです。③のパターンでは緻密なマネジメントはできませんが、信頼に足る外注先ならこの程度で大丈夫でしょう。

 

外注管理をしっかりやろうと思えば④です。全体の作業手順を理解しておかなければ、マネジメントの背骨となる計画を作成できません。発注先の勝手な思い込みで計画したところで、実態と合っていなければ意味がありません。

 

④のパターンでは、外注管理は次のような手順となります。

 

  1. 個々の成果物の内容を外注先と合意する。
  2. 外注先から個々の成果物の作成順序を説明してもらい、質疑応答を通じて理解する。
  3. 外注先から全体の作業手順を説明してもらい、すり合わせした上で合意する。
  4. 合意した作業手順をもとに計画を作成する。
  5. 作成した計画を使って定期的に進捗状況を確認し、必要に応じて改善を求める。

 

先ほども書きましたが、外注管理は人間臭さとの距離感が大切です。外注先との付き合いで最大の価値を生み出すには、彼らと目標を共有した上で “One Team” として活動するのが一番です。これがうまくいけば、お互いのストレスも少なくてすみます。

 

外注先との関わり合いをパターン①からパターン④へと発展させることで、もうひとつ、副産物が生まれます。それが、発注側に立つ人たちの成長です。

外注先に任せっきりでは、スキルの空洞化は進むばかりです。その結果、外注先から軽く見られることになります。空洞化した組織が外注先とトラブルを抱えると、その時点で The END です。

両者の関係を健全に維持するという点だけでなく、One Teamとして効果的で効率的なプロジェクト運営を目指す上でも、外注管理の成熟は欠かせません。

 

昔、私がいすゞ自動車で設計をやっていたころ、デキる先輩は、製造現場が何を意識し、どのようなモチベーションで、日々どのように作業と向き合っているかを理解していました。その結果、「これは無理だ」とあきらめかけた難題を、製造現場との二人三脚で解決できていました。

当時の設計部門と製造現場は基本的に仲が悪く、社内でありながらその関係性は発注側と請負側(≒外注先)そのものでした。ブログを書きながら、当時の懐かしい思い出も、合わせてアップデートすることができました。

 

 

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