計画の技術

「小手先ではなく、すべての計画領域に共通する根本的な計画力があるはずだ」

ガバナンスの効かない組織に計画を定着させられるのか? 私が出したひとつの答え

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私は外資系企業に勤めた経験があります。そこは、ガバナンスが前提の組織でした。戦略やさまざまな変革施策、目的意識や目標設定、働き方に至るまで、組織によって敷かれたレールの上で行動していました。

 

外資系企業の日本法人で働いていた人たちの大半は日本人で、彼らの多くは日本企業からの転職組でした。もとは、現場の自由度が大きいボトムアップの組織で育った人たちですが、転職するなり、不思議とトップダウンに馴染んでいました。

背景にあったのは、人事評価制度の存在です。ガバナンスは人事評価や昇進にまで及びます。個人目標は、事業目標からブレークダウンされて厳格に定められており、それがインセンティブに直結していました。

その他にも、細分化された役割の中での行動や競争意識、ビジネスシーンごとに決められたチームフォーメーションなど、日々の活動はガバナンスの下にありました。

 

こんな組織に計画を定着させたいなら、組織が手法や仕組みを定め「四の五の言わずにこの通りに働け」とばかりにトップダウンで現場に落とし込めば、それで事足ります。

そもそも、ガバナンスの効いた組織は計画に基づいて動いているので、その必要すらありません。

 

これに引き換え、たいていの日本企業はガバナンスが効きません。思い付きと属人性が支配しているので、計画は軽視されがちです。

このような組織に計画を定着させるのは並大抵のことではありません。

 

私はそんな典型的な日本企業で、プロジェクトマネジメント力強化の名のもとに計画の定着に取り組んだことがあります。

その企業は、高額な精密機器を受注開発型で提供することで収益を得ていました。受注から納品までに何年もかかるような大型プロジェクトが同時並行的に走り、それらが収益の大半を生み出していました。ところが、数年前からプロジェクトが軒並み火を噴き、収益性は悪化していました。

 

私が変革活動に参加したころ、当面の目的は「止血(出費を止めること)」でした。

私たちは外部への発注を原則的に禁止し、内製化を強引に推し進めました。プロジェクトのゲート(安全にフェーズ移行するための承認イベント)を強化し、レビュープロセスを厳格化しました。これによって、一時的に出血は止まりました。

 

しかし、そのしわ寄せはすぐにきました。

内製化の目途が立たないままに無理やり発注を止めたことで社内は大混乱をきたし、プロセスのあちこちが停滞しました。人々は目に見えて疲弊し、自己防衛本能からか殻に閉じこもるようになりました。技術者集団ゆえに以前からその傾向はありましたが、それが目に余る状況にまで悪化し、身勝手な行動や判断が際立つようになりました。

この結果、プロジェクトは前にも増して濃い霧に包まれるようになり、突発的な問題が多発し、完全にコントロールを失ってしまいました。

 

組織は、トップダウンで問題解決に取り組みましたが、どれもうまくいきませんでした。幹部が中心となってエンジニアリングプロセスのあるべき姿を描き出し、それを現場に落とし込むという作戦は成果につながりませんでした。ガバナンスの効かない組織が混迷を極めている中では、トップダウンがうまくいくはずもありません。

 

そのころになって、私はやっとこの組織の実態を把握できました。そして、幹部に対してある提言をしました。

それが「マネジメント基本行動の定着」です。

私はこの話をマンションの基礎工事に喩えました。

 

折しも、世の中は大型マンションの手抜き工事が社会問題になり始めたころでした。特に基礎工事の手抜きは社会問題となり、毎日のようにお茶の間を賑わせていました。私はこの問題になぞらえ、マネジメント基本行動の大切さを訴えることにしたのです。

 

私は、各人の価値観や拘り、組織文化、モチベーションや行動規範などを「基礎工事」に、トップダウンで定めた手法や仕組みを「建屋」に喩えました。

「基礎工事をやらずに、脆弱な地盤の上に豪華な建屋を建てようしている」と訴えたのです。

 

私が主張したのは、業務改革における「基礎工事の大切さ」でした。

ところが、それに対する幹部の反応は否定的でした。その理由はスピード感にありました。基礎工事を施せるのは私ひとりだったので、それでは時間がかかりすぎるというわけです。だからといって、基礎工事をこなせる人は他に見当たりませんでした。しかも、うまくいく保証は何もありませんでした。

 

そんな最中に、私に幸運が舞い降りました。

ある大型プロジェクトのプロジェクトマネージャがプロジェクトマネジメント強化の必要性を唱えたのです。大任を任されるだけあって、彼には幹部を動かすだけの影響力がありました。

 

そんな経緯で、私は残りの契約期間を使ってプロジェクトマネジメント力強化に取り組むことになりました。

フィジビリティスタディ(実行可能性調査)ともいえるチャレンジが始まりました。私はさっそく、プロジェクトマネジメントチームとプロジェクト計画の作成に取り掛かり、週次で進捗会議を回し始めました。目指したのは “意識改革” でした。

 

私は計画定着に向けた方針を打ち出しました。

 

  • 目指すのはマネジメント基本行動(=計画基本行動)の定着である。
  • 口で諭す代わりに行動で躾ける。そのためにツール(Microsoft Project)を活用する。
  • 各人の働き方を、プロジェクトマネージャがマネジメントしやすい働き方に変えさせる。

 

~ 次回の「計画は躾の問題だ」に続く ~

 

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